東京高等裁判所 昭和27年(う)2082号 判決 1952年7月11日
控訴人 被告人 石関勝義
弁護人 高柳貞逸
検察官 松村禎彦関与
主文
本件控訴はこれを棄却する。
当審における未決勾留日数中、二十日を本刑に算入する。
当審における訴訟費用は、全部被告人の負担とする。
理由
本件控訴の趣意は、被告人並に弁護人高柳貞逸作成名義の別紙各控訴趣意書と題する書面記載の通りであるから、いずれもこれを本判決書末尾に添附しその摘録に代え、これに対し次の通り判断する。
弁護人高柳貞逸の控訴趣意書一について。
所論の昭和二十七年四月十八日附原審第一回公判調書には、原審検察官が、該公判期日において起訴状を朗読した旨の記載の認められないこと所論の通りである。しかし、同年二月一日から施行されている刑事訴訟規則の一部を改正する規則第四十四条は、公判調書の簡易化のため、起訴状朗読のような公判手続における重要な事項であつても、一般的に当然行われているものと認められている事項は、公判調書の必要的記載事項としていないのであるから、原審第一回公判調書に起訴状を朗読した旨の記載がなくとも、所論のように、現実に原審第一回公判期日において起訴状の朗読がなかつたものということはできないのであつて、却つて検察官の起訴状朗読は前記のように一般的に当然行われている事項であり、しかも原審第一回公判調書には、検察官が起訴状の記載を訂正していることと、被告事件に対する被告人の陳述が明記されていることが認められるのであるから、原審検察官は右公判期日において起訴状を朗読したものと認めるを相当とするのである。しからば原審公判手続は所論のように起訴状の朗読なくして開始したものということができないから、原審の訴訟手続には所論のような違法はなく、論旨は理由がない。
(その他の判決理由は省略する。)
(裁判長判事 近藤隆蔵 判事 吉田作穗 判事 山岸薫一)
弁護人の控訴趣意
一、第一回公判調書(原審)によれば公訴事実を朗読したというべき記載がない。単に被告事件に対する陳述とのみ記載せられあるのみで如何なる内容の被告事件の陳述ありたるか不明確である。かくては公訴事実の陳述があつたか否か不明であり、かかる手続にあつて開かれた公判手続は違法でありかかる公判手続によるものは判決の基礎となし得ない。これは重大なる訴訟手続違反であり、この違反は判決に影響を及ぼすものである。
(その他の控訴趣意は省略する。)